メニエール病に対する鍼灸治療経験 2015日本東洋医学会北陸支部集会

メニエール病に対する鍼灸治療経験
【目的】
メニエール病と診断された1症例に対し、鍼灸治療を約1年間継続し・検討した結果、めまい発作の回数が顕著に軽減している症例を経験したので報告する。
【症例】
42才女性 専業主婦 やや細身
【初診日】X年5月30日
【主訴】発症すると6~8時間持続する耳閉感・耳鳴り・嘔気をともなう回転性めまい
【現病歴】
X-9年ぐらいから年に1~2回程度の頻度でめまいが出現。脳神経外科等検査をおこなうも器質的異常を認めず耳鼻科でメニエール病と診断された。しばらくは投薬治療をおこなっていたが中止。
X-3年より症状出現する回数増える。
X-1年7月2回、10月~12月にかけて毎月1回、X年5月に2回症状が出現。耳鼻科医受診、前回同様メニエール病と診断される。脳外科受診も異常なし。
この間、一定期間の投薬治療や鍼灸院等に通院するも変化なし。
不安になっていたところ当院が耳鼻科系疾患の鍼灸治療をおこなっていることを知り来院。
【既往歴】
特記すべきことなし
【症状および所見】
頸肩のコリ感・手足の冷え・中途覚醒・手足むくみ・寒がり
腹診:全体的に力なし、臍部硬く・臍下虚
舌診:淡紅舌・白苔・歯痕
背部:腎兪・脾兪・百会(軟弱)
肝兪・心兪・天柱・右肩井・右完骨(緊張)
翳風穴の静脈怒張
【病態把握】
脳神経外科医により中枢疾患が除外されていること、耳鼻科医により診断がついていること、本疾患の臨床症状を呈していることからメニエール病と判断した。
問診からストレスの影響も強いと考えた。
東洋医学的には下腹部軟弱、腎兪虚、寒がり、下肢の冷え、腎虚と捉えた。
【治療方針】
自律神経を整え、頸肩部の筋緊張も緩和することで内耳血流の改善と反射経路の促通を目的とした。
東洋医学的には腎を補うことで水の代謝が促進されることを目的とした。
治療頻度は週1回として経過観察することとした。
【治療】
中脘・左陽池・関元・足三里・照海・腎兪・大腸兪・次髎・脾兪・肝兪・心兪・・・灸
百会・天柱・右風池・右完骨・肩井・膏肓・腎兪・・・置鍼
鍼:Neo ディスポ鍼0.16×30、筋膜に達する深度で15分置鍼
灸:8分灸
補助療法として
近赤外線(スーパーライザー)星状神経節照射(左右)
左右聴宮-翳風間SSP通電を用いた。
【評価】
鍼灸治療介入前後1年間のめまい発作の頻度を比較することとした。
【経過】
初診:平成26年5月30日
7/1 (第6診) めまい(-)食欲がないなど訴えたこと、めまいが消失していたことから
腎虚⇒脾胃虚に変更した。
7/15(第8診)7/9めまい出現PM11:00~AM2:00まで。腎虚に変更
10/7(第21診)10/6右耳の耳閉感、耳鳴り、軽度難聴のため耳鼻科受診。
急性低音障害型感音性難聴と診断
11/14 聴力改善したため耳鼻科中止 
2/24(第43診)2/20右耳の耳閉感、耳鳴り、軽度難聴出現のため耳鼻科受診
3/5 (第44診)聴力回復、耳閉感(-)、耳鳴り(-)、耳鼻科中止
6/2 (第56診) めまい(-)時々耳閉感あり

【結果】めまい発作回数
平成25年5月30日~平成26年5月29日・・・7回(7月②10①・11①・12①5②)
平成26年5月30日鍼灸開始
平成26年5月30日~平成27年5月29日・・・1回
※10月6日、2月20日に低音型感音性難聴
時々出現する浮揚感、耳閉感などが残存しているがめまいに対する不安感は減少した。
【考察】
メニエール病に対する鍼灸治療の有効性については古くから報告されており、竹ノ内はメニエール病と診断された30例に対して、また 菊池は薬物治療に抵抗を示したメニエール病65例に対して、門倉らはメニエール病を含む末梢性めまい7例に対して鍼灸治療をおこないいずれも有効であったとしている。その後も報告はあるもののメニエール病は発作間隔も一定していないこと、現実には無治療群との比較検討が容易ではないことから治療の効果判定があいまいな報告も散見している。したがって現在では治療前後の一定期間の発作の回数を比較することが推奨されており、今回鍼灸治療介入前後1年間のめまい発作の回数を比較した結果、顕著に回数の減少を見た。またこの間、有害事象もなく安全に鍼灸治療をおこなうことができた。
これらのことから鍼灸治療はメニエール病の間歇期におけるめまい発作予防に対して有効な治療法の一つとなる可能性が示唆された。
一般的にメニエール病はいかに間歇期に発作予防するかが大きなポイントといわれており、対策として生活指導・心理的アプローチ・薬物療法などが組み合わせて処方される。おおむね70%は発作予防に有効であるとの報告もあるが本症例のように抵抗を示す症例も存在しQOLの低下をきたす。したがって西洋医学的治療に抵抗を示す症例については鍼灸治療を検討しても良いのではないかと考える。
一方10/6・2/20右耳閉感、耳鳴り、低音部の軽度難聴など急性低音障害型感音性難聴と診断された症状が出現した。これはめまい発作をともなわないメニエール病(非定形例蝸牛型)とも考えられ引き続き蝸牛症状にも注意を払いながら検討してみたい。
【結語】
① メニエール病の1症例に対して鍼灸治療をおこない有効性を検討した。
② めまい発作の頻度は減少した。
③ めまい発作への不安感も軽減しQOLが改善した。
④ 急性低音障害型感音性難聴が出現したがめまい発作は起きなかった。
⑤ 本症例に対しメニエール病のめまい発作予防としての鍼灸治療は有効な治療法であったことが示唆された。