卵子が改善されるまでの期間

『不妊の鍼灸治療はどのくらいの治療期間が必要なのですか』

全日本鍼灸学会の統計ではART体外受精レベルの患者さまで平均6.3ヶ月鍼灸を続けると成功率が上昇するというデータが報告されています。

よく漢方薬を飲み続けても妊娠に至るには『体質改善には半年ぐらいはかかりますよ!』
とは良く聞く話です。
どうも6ヶ月というのがキーワードのようです。
ではなぜこのぐらいの期間が必要になるのでしょうか?
『卵子の成長』という視点から少し考えてみましょう。

ここでみなさんに質問です。
『今月排卵される卵子はいつごろから卵巣で準備されるのか?』
医療関係者は当然知っていますが、一般の人ははるか昔に生物や発生学などで学んだことがあるかもしれませんね。
答えは5~6カ月前から徐々に大きくなり排卵されるその周期まで成長し続けます。
卵子は 原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞、(初期、中期)胞状卵胞、排卵期卵胞と成熟していきます。
原始卵胞から前胞状卵胞まででなんと3ヶ月以上もかけてゆっくり成長していきます。
前胞状卵胞から初期胞状卵胞まで約25日、そして直径が約2mm~5mmになると
Selectable follicle (選択される可能性のある卵胞)と呼ばれる状態になり、24才~33才までの人なら通常3個~11個あります。
排卵に向かう卵胞はこの中から1個が選択されて排卵されます。この間が月経開始から約2週間で排卵されるのです。
この原始卵胞にはじまり排卵されるその時に向かい少しずつ成長していくまでに実に約5~6ヶ月必要になるのです。


どうですか?約半年というキーワードとつながりましたね。
実は卵子にとっても鍼灸治療にとってもこの半年というのは非常に重要な働きを必要とする期間になります。
それにはなぜ卵はこのように長くゆっくりと成長する必要があるのでしょうか?
ということを考えると少し見えてくるように思います。

卵子がなぜゆっくりと約半年という長い時間をかけてゆっくり成長するのでしょうか?
今回はこれをすこし考えます。

卵子の減数分裂は通常の体細胞分裂と異なり非常に早いスピードで分裂をすることが知られています。
これの意味するところは・・・
通常の体細胞分裂は細胞周囲の環境に影響されながらゆっくりと分裂するのに対し、卵子の場合は周囲の影響を受けずに分裂するということです。
ということは?・・・
あらかじめ遺伝子や細胞に『分裂開始!分化開始!』の号令で一斉にスタートできるようにあらかじめ十分に準備、パワーを充填しておく必要があるということです。
大きな排卵される卵ばかりに注目しがちですが実は受精するまでの準備期間がその卵の将来にとっていかに大切か容易に想像できます。
したがって、この期間にヒートショックプロテインを増大させ、分子シャペロン機能を働かせておくかが、排卵・受精以降に重要になるということです。
この期間に鍼灸治療をおこなう意味がここにあります。

但し、卵子の成長については大きく分けて、
原始卵胞~2次卵胞まではゴナドトロピン非依存性
前胞状卵胞から胞状卵胞まではゴナドトロピン反応性発育
胞状卵胞から排卵まではゴナドトロピン依存性発育
ざっくり言うとこの3つのステージに分かれます。
どのステージから卵が鍼灸治療に反応するかで、良好胚と出会うまでの期間は変わるのでしょう。

『急がば回れ、だったわ!』
うまく妊娠した患者さまが良く言われる言葉です。
いま現在、『分割が途中で止まってしまう』『胚盤胞まで育たない』『グレードが低い』人は良質の卵子を採卵できるように準備をしっかりおこないましょう。
※この期間は病院での不妊治療を中止しましょうということではありません。
いつ良好な卵子が取れるか判らないこと、年齢的なこと等々により病院での不妊治療と併用してください。

最後に
1回2回の短期の治療で卵子の質が変わるわけではありませんが、このように質の良いタンパク質に満たされた、細胞質に満たされた状態で成長させ排卵されるその日を待ちましょう。
そのために鍼灸を活用してみてはいかがでしょうか?
良好胚に出会うまでについてとくにヒートショックプロテイン、分子シャペロン的視点から卵子に注目ついて考えてみました。

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院長のアメブロ・・・こちらでは少しライトな感じで妊活などについても書いています。

ヒートショックプロテインと妊娠

レタスやキャベツを50℃の温度のお湯で洗浄すると日持ちが良くなるというのをご存知ですか?
これは表面の付着物を洗浄するという目的もあるようですが、一番は野菜の持っているヒートショックプロテインを増大させて酸化を防いでいるのです。

ゆで卵を生卵に戻す?こんなことが可能だと思いますか?

理論上は可能であるといわれています。これもヒートショックプロテインのためです。
このヒートショックプロテインとは野菜だけでなく、大腸菌から人間まで生物のほとんどが持っているタンパク質です。
ほとんどの生物が持っているということは、生命維持にとってなくてはならないタンパク質であるということを表しています。
最近の研究でこのタンパク質が妊娠に大きく関与していることが少しずつ明らかになってきています。

では妊娠の話に入る前に少し簡単に、このタンパク質についてご説明させていただきます。

このタンパク質はヒートショックプロテイン(熱ショックプロテイン)とかストレスタンパクとか分子シャペロンという名で呼ばれています。
元々このタンパク質の発見が熱によるストレスに関連することからこのように呼ばれています。
このタンパク質の働きは大きく分けて3つに分けられます。


①ストレスを受けた時に活躍します。

分子レベルでは病気や傷害を受けたということは、その細胞のタンパク質が壊れてしまったことを指します。この壊れたタンパク質を修復したり、修復不可能な場合は自己死(アポトーシス)へ導きます。そして正常なタンパク質に置き換える役目をします。
不良なタンパク質をそのままにしておくとそこからまた新たな病気を引き起こすことになります。
『タンパク質の修理屋さん』です。

②ストレスを受けていない時は通常のタンパク質の生成から移動、廃棄までそのタンパク質の一生に寄り添い良質のタンパク質を生体内で維持できるように働いています。
これを恒常性維持といいます。人間の体は水分を除けばほとんどタンパク質でできています。したがってタンパク質の恒常性維持とは健康維持ということになります。
タンパク質あるところに、陰ひなたに寄り添ってお世話係として存在しています。

③熱耐性効果を持っています。

酵母は通常50℃で死んでしまいますが、前もって37℃で加温してやりヒートショックプロテインを増やしておくと50℃でもほとんど死ななくなります。
人間に置き換えると、強いストレスを受けるイベント、仕事上や受験等々やスポーツの大会試合などの前にこのヒートショックプロテインを増やして臨むと通常受ける傷害、ストレスよりも軽い状態にできます。予防的に働くということです。
つまり人間の生命維持、健康にはその構成要素である正常なタンパク質が必要で、そのためにはこのヒートショックプロテインが必ず必要になるということです。

当然『卵子』もタンパク質でできています。受精後の分割・分化する際には大量のタンパク質が必要になります。
タンパク質が必要ということは?
そうですこのヒートショックプロテインも必要になるということです。

次になぜ自分の卵が『受精卵のグレードが低い』『なかなか卵子が分割しない』『着床しない』ということになるのでしょうか?

卵子について分子レベルで考えてみたいと思います。
なぜ分割が止まるのでしょうか?なぜ胚のグレードがひくいのでしょうか?
例えば『胚盤胞までなかなかいかない!』
っというその多くは受精卵の減数分裂時にチューブリンという部分がうまく遺伝子を引っ張ることができないために遺伝子的にトリソミーとなり分割が進まなくなるといわれています。
このチューブリンは細胞質にあるため、『じゃあ、細胞質を変えてあげよう』ということも考えられているようです。
核置換術なる療法がそれに当たります。
まあいくつか問題もあるようですが。
またミトコンドリアを活性化させて良質の卵子を!という考え方もあります。サプリやお薬でということも取り入れられているようです。
このミトコンドリア内にも当然ヒートショックプロテインがありますね。

したがって細胞質を取りかえるのではなく、このヒートショックプロテインで不良な細胞質のタンパクを修復し、良質のタンパク質により自分の力で分裂させれば良いということです。
じゃあ、どんな時にこのヒートショックプロテインが増えるのでしょうか?
細胞分裂や細胞が分化する際に増加するということはすでに紹介しました。

もうひとつ、熱をはじめ、ストレスが生体に加わった時に増加するのです。これを利用しているのが加温療法とか和温療法になります。これはそのまま熱によるストレスを与えていることになります。
その他、鍼・灸なども体の組織や細胞などには強いストレスになります。
治療されている本人は気持ち良いのですが・・・。
だから・・・『鍼灸治療を活用しましょう』ということになります。
鍼灸治療で胚のグレードがあがる、妊娠する、というのは少しずつ知られてきました。
しかしそのメカニズムについてはほとんどわかっていません。根拠がないから効かないという人もいますが、鍼灸でRCTをするという方法的困難と研究自体が進んでいないということもあるのです。
なんせ鍼灸の研究分野にはなかなか予算がつきませんので、この分子レベルでの高額な研究はなかなか進まないのが現実なのです。
しかし臨床の現場では確実に変化(体調や生理、受精卵のグレード等々)が見られるので患者さまもとても喜ばれています。(何回もチャレンジしている人はモチベーションの維持がこれまた大変ですからね)
また古くから鍼灸のメカニズム(なんで効くの?)の解明にこのヒートショックプロテインが関連しているのでは?と報告されてきました。
近年は筋委縮関連の論文でも明らかにヒートショックプロテインの増加が認められると報告されています。

つまり今までの鍼灸治療で『体調の改善、卵巣・子宮の血流改善、自律神経ホルモン系の改善、免疫系の改善』という効果、メカニズムの他に
ヒートショックプロテインをはじめとする分子シャペロン的な機能を賦活させ良質のタンパク質を持つ卵子を作り、そして妊娠に臨むことができる!
鍼灸はその可能性があるということです。
『不妊の人に鍼灸すると、どこがどうなって妊娠しやすくなるの?』と良く聞かれます。その一つのお答がこれにあたると推測しています。