非歯原性歯痛と鍼灸のすすめ

「歯や歯周組織に問題がないと言われたのに、歯が痛む」このような経験をされたことはありませんか? その場合、もしかすると「非歯原性歯痛」かもしれません。

非歯原性歯痛とは、歯やその周囲の組織に明確な問題がないにもかかわらず感じる歯の痛みを指します。この痛みは、かつてはあまり認知されておらず、適切な診断が難しかったために、実際には必要のない根管治療や抜歯が行われることもありました。

この非歯原性歯痛には、いくつかの原因があります。その中でも、鍼灸療法が効果的とされるのは次の三つです。

  1. 筋・筋膜痛による歯痛
    咀嚼筋(噛みしめる際に使う筋肉)や顎関節、さらには首や肩の筋肉に起因する痛みです。筋筋膜性疼痛が原因の非歯原性歯痛の中で最も罹患率の高く、約45~50% を占めるとされています。この筋筋膜性が原因の歯痛は、通常の歯科治療では対処が難しいケースが多く見られます。
  2. 神経障害性疼痛による歯痛
    神経が過敏になっていることが原因で痛みが生じるケースです。このような痛みは、歯そのものに問題がないため、従来の歯科治療では解決が難しいとされています。
  3. 特発性歯痛・非定型歯痛
    明確な原因が特定できないものの、持続的な痛みが感じられる場合です。このようなケースでは、体全体のバランスを整えるアプローチが必要とされます。

鍼灸施術のアプローチ

鍼灸療法では、まず咀嚼筋や顎関節、そして首や肩のこりに対して施術を行います。肩こりが原因となっているケースも多く、患者さんが自覚していないこともありますので、これらの部位を丁寧に確認しながら施術を進めます。

また、東洋医学の観点からは、体全体のバランスを整えることが重要です。非歯原性歯痛は、歯そのものに原因がないため、身体のバランスが乱れていることが考えられます。そのため、根本原因にアプローチすることで、痛みの軽減を目指します。

もし歯の痛みが続くものの、歯科治療で解決できない場合は、ぜひ鍼灸療法を試してみてください。お体全体を整えることで、痛みの改善が期待できます。

【症例】

非歯原性歯痛に対する鍼灸療法の1症例

【目的】

歯科的に異常がないにも関わらず歯の痛みを訴える患者に対して鍼灸療法を施行し、短期間で疼痛が消失した症例を報告する。

【症例】

30才女性、[初療日]:X年6月17日、[主訴]:歯の痛み[現病歴]X年5月初旬から右上下前歯および右奥歯に疼痛が発生。歯科医で異常が見られず鎮痛剤が処方されるが、疼痛は改善せず鍼灸療法を希望して来院。

【症状および所見】

常時疼痛があり、軽度の噛みしめで増強。食事や歯磨きでは疼痛は増強しない。冷水でしみる。歯科で歯ぎしりを指摘され、マウスピースが処方されている。右咬筋軽度圧痛、右顎関節部および左右側頭筋圧痛、頸肩部緊張圧痛。

【東洋医学的所見】

上腹部腹直筋やや緊張、右胸脇苦満、左臍傍圧痛、小腹軟弱、足先冷え。実:曲泉、膈兪、肝兪。虚:足三里、脾兪、腎兪。

【施術】

肝の異常と考え、澤田流太極療法を参考に施術。足三里、三陰交、照海、右聴宮、曲泉、右合谷、肝兪、脾兪、腎兪に置鍼、天柱および風池に単刺、中脘、左陽池、照海に灸1壮。30mm18号ディスポーザブル鍼使用

【経過】

6月24日(2回目)初回の施術翌日に疼痛が顕著に軽減し2日目には消失。以降は疼痛出現することがないため歯痛に対しての施術終了。

【考察】

歯や歯周組織が疼痛発生源でないにも関わらず歯痛を感じる非歯原性歯痛の病態が注目されているものの、鍼灸療法に関する報告は少ない。日本口腔顔面痛学会のガイドラインによると「鍼灸はほとんど報告がなく有効かどうかは不明」とされている。今回の症例は肝の異常が疼痛に大きく関与していると判断し施術をおこなった。古典的な歯痛の治療では歯に属する経絡を中心に行われるが、非歯原性歯痛は関連痛や神経系の複雑な機序が関与するため、全体的なバランスを重視する鍼灸療法が有効である可能性が高い。非歯原性歯痛に対する鍼灸療法は試みる価値があると考えられる。

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