脊柱管狭窄症に対する鍼灸治療の2症例

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【症例1】66才 男性
【初診日】平成22年4月7日
【主訴】左下肢の疼痛
【現病歴】
X年12月20日にタイヤ交換をした後に腰部~左下肢へ疼痛(つっぱるような痛みと軽度しびれ感)のため歩けない。20mも歩くと疼痛増強し、休まなくてはいけない。少ししゃがんで休むとまた少し歩ける。そこでH病院整形外科にてMRI検査や血管の検査を受けた。第4腰椎が軽度すべっており、それが原因の脊柱管狭窄症と診断された。この間鎮痛剤やビタミン剤など処方され服用してきたが変化なく、鍼灸治療が効果ありそうだと思い来院した。
【既往歴】高血圧・喘息
【所見】
座位にて体幹を右に傾けて、左下肢を摩っている。跛行(+)
安静時右側臥位にて疼痛およびしびれ感軽減
仰臥位は数秒でツッパリ感様の疼痛が出現し不可・寝返り疼痛のためしにくい
ラセーグ60度(+)L4軽度階段状変形・腰部脊柱軽度左凸の側湾
膝窩・足背・後脛骨動脈拍動(+)
① 左3~4の多裂筋に索状硬結・左下肢へ関連痛
② 左3~4の最長筋に索状硬結と認知覚
③ 左中臀筋に圧痛・大腿部腸脛靭帯の前・後側に索状硬結および認知覚
【病態把握】
① 整形外科にて各種検査を受け、腫瘍性疾患・動脈性疾患は除外されたこと
② 検査の結果や臨床症状などからヘルニアは除外されたこと
③ 階段状変形が軽度であること
④ 間歇性跛行を訴えているが、しびれというより、つっぱり感が強くなり痛みに変わっていくような旨のことを訴えたこと
⑤ トリガーポイントでみられる各種反応部位があったこと

以上のことから腰部脊柱管狭窄症の神経根型の症状も一部呈しているが、筋・筋膜性の疼痛も合算して現症状が出現しているものと考えた。
【治療計画】
まずトリガーポイントを不活性化させ、筋性疼痛による症状を緩和させる。その後残存している神経根症状に対してアプローチしようと考えた。
症例は鍼灸治療が初めてなので強刺激とならないように、いわゆる響きを出さないように注意し経過を観察した後、響きや鍼通電など刺激強度、方法を工夫することとした。
治療頻度は疼痛が軽減するまでは週2回とした。
【治療】
太極的観点から腹部・頸肩背部へ単刺
筋性疼痛の緩和を目的に多裂筋・最長筋・中臀筋・大腿部腸脛靭帯の前・後側などの押圧にてトリガーポイントの反応を示したところへ1~2本置鍼した。
山正ネオディスポ鍼1寸1番を使用し、深度は筋膜に触れる程度とした。
【経過】
4月13日(第3診)跛行が改善(待合室の椅子からベッドまでの間、歩行距離は不明)
安静時のしびれ感(+)右側臥位中に体幹左に回旋させるとしびれ感が消失する。
4月20日(第5診)歩行距離延びる(20メートル程度は可能)。それ以上の歩行はしていないのでわからないが疼痛はない。寝返りがスムーズになる。仰臥位
反応のある多裂筋―最長筋間と中臀筋―腸脛靭帯間へパルス開始
4月23日(第6診)仰臥位でのツッパリ感が消失
5月1日(第8診) 歩行距離伸びる。ほとんど痛くない。しびれ感(-)
週1回の治療として経過観察とする。
略治にするか患者と話したが、念のためしばらく通いたいとのことだった。以降畑作業後に左腰部に鈍痛が出現するも治療により改善するため予防的な意味も含めて通院したいとのことで、現在も週1回の治療を継続中である。

【症例2】65才 女性
【初診日】X年9月10日
【主訴】両下肢後面の疼痛による歩行困難
【現病歴】
X年3月ごろより腰部から後面にかけて疼痛が出現した。背筋を伸ばすと腰臀部から下肢後面にかけて疼痛出現。少し腰を曲げる姿勢をとると疼痛消失。歩行は30M程度で疼痛が強くなりしゃがんで少し休むとまた歩ける。
整形外科にてレントゲン撮影により第3腰椎のすべり症による脊柱管狭窄症と診断される。神経根ブロックや消炎鎮痛剤を服用するも効果なし。現在腰部の干渉波治療や腰部の牽引など毎日行っているがあまり変化ない。友人に『腰が曲がって歩いているので年寄りみたい』といわれたことや、8月に毎年旅行に行っていたが、今年はキャンセルしたこと、外にでても歩けないこと、手術しないと改善しない旨のことを医師にいわれたことなどにより、気分的にも憂鬱である。そこで友人に相談したところ当院を紹介され来院した。
【初診時所見】
腰曲げて歩いている。表情暗い。腰部伸展位にて臀部から大腿後面にかけて疼痛出現。
軽く屈曲すると症状消失。
臥位にて腰椎の前湾増強。階段状変形(-)
ラセーグ(-)下肢動脈拍動(+)腱反射(+)病的反射(-)
【病態把握】
脊柱管狭窄症の馬尾型の疑いもあるが、つっぱり感が強くなり疼痛が出現している旨を訴えたので、筋性疼痛の可能性が高いと判断した。
【治療】
大腿二頭筋・半腱様筋・腓腹筋アキレス腱移行部へ置鍼後棒灸
【経過】
第2診  少し楽な感じがする。
第3診  体をまっすぐに起こせるようになった。友人から『歩く姿勢がよくなった、治ったんじゃない?』と言われてうれしかった。 
歩行もスーパーへの買い物も普通にできた。足の疼痛はほとんどなかった。
第4診  日常の歩行にはほとんど疼痛出現しない。すこし違和感はある。
第5診  今日日帰りのバス旅行の予約をしてきた。今まで憂鬱だったが、症状が良くなってきているのでとてもうれしい。
【考察】
整形外科でLCSと診断を受けた後に症状が変化せず、鍼灸治療を希望され来院する場合は多い。今回、同病名で診断され、神経根ブロックや薬物療法などが行われたが変化せず来院した2症例に対して、神経根型と筋・筋膜性疼痛症候群と推測しトリガーポイントを丁寧に治療することで下肢痛および間歇性跛行の消失を認めた。これはトリガーポイントの検索で難易度の高いとされる所見をみつけることができたことや内科的疾患など治癒を遷延させるような疾患がなかったことなどにより比較的早期に変化したものと考える。
LCSの病型分類の神経根型は保存療法、特に鍼灸治療は非常に効果的であると報告されており、陰部神経刺鍼による坐骨神経の血流改善なども報告されている。
しかし本症例はトリガーポイントを処理することで症状が改善したことから筋性疼痛でも同様な症状が出現する可能性があることが分かる。
間歇性跛行とは本症に特徴的な症状であり,短い距離の歩行で片側または両側の下肢にしびれや痛みを生じて歩行が継続できなくなるが,数分間しゃがみ込むような姿勢を取ると症状が軽快して歩行が再開できるような異常歩行を示すことをいう。実はこれがポイントでこのような症状と何らかの腰椎所見があれば安易にLCSと診断されているようである。当院の経験上、間歇性跛行においてつっぱり感様の疼痛が強くなり歩行が不能になる症例は筋性疼痛の可能性が高く、鍼灸治療にて劇的な効果を示す場合が多い。しびれ感が付随していても、つっぱり感様の疼痛を改善させることで、症状の緩和を認めることができる。事実、整形外科にてLCSと診断され当院訪れた症例に対し筋性疼痛的観点から治療した結果、間歇性跛行が消失し、QOLが大きく改善した例は数多く存在する。
ここでLCSの診断についての注意点として、福島県立医科大学医学部整形外科准教授の紺野慎一氏によると、以前から、LCSに対する画像診断の限界が指摘されており、画像診断のみからLCSを診断することは不可能で、画像所見と症状パターンの一致もみられないという。そこで、問診が不可欠になるとしている。
画像診断の術を持たない鍼灸師も問診や所見を含め、総合的に判断すればLCSの把握は十分可能な疾患であるといえるが、筋性疼痛という概念を知ることでより正確な病態把握が可能であると考える。我々鍼灸師も、もう一度この疾患について知ることが必要で、筋性疼痛という概念も取り入れることができ内科的疾患との関連なども考慮に入れ、全身を診て病態を把握し、治療できることが一般の整形外科医、柔道整復師と我々鍼灸師との違いであり、それができる鍼灸師こそが競争の中で生き残ることが可能であると考える。