トリガーポイント鍼治療

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トリガーポイント療法とは


鎮痛効果が高い。
軟部組織へのアプローチとなるので安全性が高い。
器質的に問題があっても一定効果を得られる場合がある。
理論的に障害局所が推定できる。
患者の満足度が高い。


トリガーポイントの研究と歴史

19世紀始め、東欧で発見。20世紀後半にアメリカの整形外科医のトラベルらによって体系づけられる。
日本語訳としては、発痛点として考えると理解しやすい。
トリガーポイントの成因としてはポリモーダル受容器仮説が有力?

トリガーポイントの特徴

索状硬結・可動域の改善・疼痛の再現と認識および関連痛の誘発
ジャンプサイン・局所単収縮反応・典型的な関連痛パターンの存在
ⅰ)★索状硬結
  伊藤(明治鍼灸大学)によれば実験の結果、索状硬結上(約1cm程度)の圧痛閾値低下部位。
※急性期や疼痛が強い場合は筋肉全体が緊張しており、索状硬結はわからない場合もある。(表面がヌルヌルしたような感じになっている)筋緊張の緩和後や、症状が軽減してくると後に発見することもある。
ⅱ)★可動域の改善
トリガーポイント含有筋は収縮させると痛む。または収縮できない。したがって可動域を測定し、可動が制限されているような動作の収縮筋を推定する。またトリガーポイントを圧迫しながら測定すると改善する場合あり。
ⅲ)★疼痛の再現と認識、関連痛の誘発
  責任トリガーポイントを圧迫することにより疼痛が再現される。(遠く離れた末梢部へ放散する場合もある。)患者は「ああそれっ」と思わず声を出してしまう。自覚的疼痛部位と同じであればその部位が活性化されたトリガーポイントである。診断的価値は高く治療効果も大きい。
※ただし必ずしもすべての例において疼痛の再現が認められるとは限らない。
また押圧を数分持続することにより再現される場合もある。
ⅳ)局所単収縮反応(ローカルトゥウィッチ)(トゥイッチング)
  索状硬結をつまんだり、鍼を刺入したりすると局所的な一過性の筋収縮反応をおこす。
※ 手指で弾く場合は表層の筋肉に限られる。またこの反応をおこすときは相当の熟練度が要求される。診断的価値は高い。またトゥイッチングを認めた後は筋緊張が緩和しやすい。
Ⅴ)★ジャンプサイン(逃避反射)
  トリガーポイントに圧迫刺激をすると、その刺激により反射的に身体をうごかすこと。
 ※検者の圧迫の強さに左右され、診断的価値はあまり高くないという報告があるが、経験上、活性化されたトリガーポイントでうまくこの反応を出すと、その瞬間から疼痛や運動痛が消失する場合もある。
Ⅶ)典型的な関連痛パターンの存在
   トラベルとシモンズのトリガーポイント関連痛の図
   小臀筋からの坐骨神経痛様疼痛
   斜角筋からの上肢神経痛様疼痛など
※ 実際はこれで探すとなかなか活性化されたトリガーポイントを見つけることは難しい。
参考程度か?

問題点

熟練度により治療効果に大きく開きがある。
解剖生理学・運動学的知識が必要。
初心者では責任トリガーポイントの検索に時間がかかる、または検索できない。
トリガーポイントにこだわりすぎて、不適応疾患の鑑別、病態把握、予後判定などを誤る場合がある。
症状にある背後の病態を見逃す。(腫瘍、精神疾患、更年期症状、etc)

頭の整理

※ 圧痛点とトリガーポイントは違う。
※ 痛みを訴える部位が障害部位とは限らない。(収束-投射説)
※ トリガーポイントは潜在性も含めて、周辺に多数存在していることもある。
※ 基本的には疼痛の再現と認識が出現するポイントを検索することが大切。ただし、神経を圧迫した際の症状の再現と混同しないように。
※ 典型的な関連痛パターンを中心に検索しないように。初心者に多い。


トリガーポイント療法のおおまかな流れ

トリガーポイント療法の前にしなくてはいけないことは
四診によりスクリーニング的な病態把握をおこなう。
まず絶対的および相対的不適応疾患がないか、自院にての治療が適切なのかを考える。
・ 絶対的不適応疾患とは生命に危険をおよぼすような疾患または直ちに医師の診察・治療が必要な疾患。自院では治癒不可能な疾患。
腫瘍性、脳血管性、・・・etc
・ 相対的不適応疾患とは生命に危険をおよぼす疾患ではなく、直ちに医師の診察・治療が必要な疾患でもなく、自院でも治療してよい疾患。
また自院でも治癒可能であるが、医師の治療がより適切である場合など。
ただし治療者の経験、技術や患者との信頼関係等によりその幅は広がる。
経過観察が重要。
骨折、脱臼、石灰沈着性肩板炎、第3度捻挫、重症椎間板ヘルニア,半月版損傷・・・etc

視診~触診までの流れ

 視診

患者は活性トリガーポイントが存在している筋肉を無意識的に伸張する姿勢をとる。したがって患者の姿勢を診て、どの筋肉が伸張維持されているかを考え、伸張されている筋肉を推定する。
楽な姿勢とは活性トリガーポイントを伸張している姿勢と考える。
※ 無意識でとっている姿勢が重要。


問診
※トリガーポイント検索のための問診
どこをどう動かしたら痛むか。
どんな姿勢が痛いか。反対にどんな姿勢が楽か。
※ 短縮している筋肉はどの筋か?あるいは伸張されている筋肉はどれか?
※ 重症度、治療後の効果判定の一つにもなる。

検査
活性トリガーポイントを持つ筋肉は収縮すると痛みが増強する。または収縮できない。痛みを出す動作のどの筋肉が収縮しているかを考える。
また可動域が減少しているのはどの筋が収縮できていないかを考える。

よく似た走行の筋肉、また同じような作用を持つ筋が複数の場合、角度をかえたりしながら、筋肉を同定する。
重傷度・・・他動的収縮→自動的収縮→抵抗収縮→遠心性収縮
※ 伸張と遠心性収縮を混同しないようにする。例 前屈時の腰背部痛や腕を降ろす時の肩関節痛など
 
触診
  視診、問診、検査などでおおよそ推定された筋肉へ触診する。
丁寧に筋肉内の索状硬結を指標に押圧して、疼痛の認識と再現や関連痛、ジャンプサインなどが出現する部位を検索する。
疼痛が強い場合や疼痛が出現して数日経過しているものは交感神経反射の亢進や筋性防御などにより、活性トリガーポイントを含めた周辺の筋肉が緊張しているので、触診が難しい。

ポイント
トリガーポイント検索には土台が重要。基本は骨。無い場合は拇指などを土台として押圧する。(☆これが非常に重要)一番硬く感じる方向に圧迫すると疼痛の再現が得られやすい。
一方向ではなく、いろいろ角度を変えて、患者がああそれっという場所を見つける。手技療法の圧の方向も同一方向を中心におこなう。
疼痛の認識と再現や関連痛出現する部位が発見できない場合でも、トリガーポイントの特徴であるものがあればそこに治療する。


トリガーポイント療法の治療


〈自院にて治療が適切であると判断した場合〉
(ただし外傷で明らかに損傷部位が推定できるものは除く)
Ⅰ 他動的収縮が困難、または疼痛が出現する場合
Ⅱ 自動収縮により疼痛が出現する場合
Ⅲ 抵抗収縮・遠心性収縮で疼痛が出現する場合
Ⅳ 労作後やスポーツ後のみ疼痛が出現する場合。

おおまかにわけて上記の4つに分類する。

Ⅰ.他動的収縮が困難な場合
(関節拘縮・筋拘縮除く)例 寝違え・急性腰痛・下肢痛etc

ストレッチ姿勢にてトリガーポイント含有筋(傷害筋)を推定する。
他動的収縮が困難な場合は急性期や疼痛が強い場合が多いので、トリガーポイントというよりは筋肉全体で考えた方が良い。
この筋肉をいかに緩ませるか?また交感神経反射を断ち切り、発痛物質を取り除き循環を改善させ、治癒に導くか?
① 局所冷却・湿布
② 包帯固定にて局所の圧迫、免荷
③ 伸縮性テーピングにて当該筋肉に貼付し、持続的刺激により筋緊張緩和を期待する。また皮膚を緩ませること(鍼灸の皮膚鍼)により疼痛の軽減または筋緊張緩和を期待する。
④ 低周波や干渉波による局所あるいは全身の疼痛閾値改善や血流の増加に期待する。
⑤ 手技療法にて
・ 疼痛側とは反体側の筋緊張を取り除く(鍼灸の巨刺、圧発汗反射、頚反射)
・ 障害されている運動の共同作用筋の筋緊張を緩和させる。
・ 障害されている運動の反作用筋の筋緊張を緩和させる
・ 活性トリガーポイント含有筋の緊張を緩和させる。軽微な刺激にとめておく。

⑥ ストレッチ

評価
可動域の改善または筋肉のゆるみが認められればそれで良い。(動的評価、静的評価)
痛みをすべて無くそうと考えない方がよい。あまり強い刺激は逆に疼痛の増強や反射性の筋収縮を助長してしまうため。

経過観察し、症状不変、悪化であれば不適応疾患も考慮し、慎重に対応する。
症状が軽減し、収縮が可能になればⅡへ

Ⅱ.自動収縮により疼痛が出現する場合

①疼痛出現動作を再現してもらい、収縮筋を、②ストレッチ姿勢をとっている場合(疼痛が軽減する肢位)伸張されている筋肉伸張筋を推定し順次トリガーポイントの検索の指標に基づきおこなう。
ただし動的静的観察にて明らかに活性トリガーポイント以外に緊張が認められる場合はその筋肉へもアプローチしておく。症状が強い場合はこれから先に処理すると良い。
なぜならトリガーポイントにこだわりすぎるため、局所だけを治療すると刺激過多になる場合や効果ももうひとつの場合が多いからである。
あくまでも全体を診て、筋緊張を緩和させていくと考えた方がうまくいく。(全身に治療をするということではなく、全身を診て、もっとも効果的な部位に治療するということ。)
これのみでも運動痛は軽減する場合多い。
その後にトリガーポイントを検索していく。ただし解剖学的肢位や疼痛出現肢位、伸張肢位などで初めて触れる場合あり。一つの肢位にて検索終了しないように注意する。

☆活性トリガーポイントが発見できない場合
※ トリガーポイントの特徴でもある痛気持ちよい筋肉をみつけて緩和させればよい。一定鎮痛効果を認め、また患者の満足度も高い。
※ 圧迫やつまんだまま運動させて疼痛が軽減するような場合、また可動域が改善する場合はそこが治療点になる場合もあり。ただし活性トリガー以外でも収縮筋をつまんだりすれば動作時痛が改善するのであくまでも補助的程度な方法と考えよう。切れ味が悪い。ただし一定効果あり。治癒に向けて前進はする。
あくまでも疼痛の再現があるところを探す。・・・治療効果が大きいため。


Ⅲ.抵抗収縮・遠心性収縮で疼痛が出現する場合

重傷度でいえば軽い方に入る。慢性痛や、軽微な運動痛、軽減したがあと少しが治りきらない例などがこの分野に入る。
トリガーポイント検索をおこなう。(ただし明らかに動的静的観察にて明らかに活性トリガーポイントに緊張が認められる場合はその筋肉へアプローチしておく。)
単純にトリガーポイントのみが問題である場合、活性トリガーポイントを見つけ、処理すれば劇的な鎮痛効果が得られる。

この段階で重要なことは
※トリガーポイント形成もしくは永続にいたる原因を推測し、それについてのアプローチも考慮にいれる。
① アライメント異常からの特定筋肉の負荷の増大  
② 関節症神経症からの関連痛による同部位への持続的刺激によるもの(ダブルクラッシュ)
③ 内臓からの関連痛による同部位への持続的刺激によるもの。内臓体性反射により対応部位の微小循環の不良を認める報告あり。鍼灸治効理論の代表的研究
未病を診る
④ 血管病変による血流障害によるもの(局所的全体的)

Ⅳ 労作後やスポーツ後のみ疼痛が出現する場合。

四診にて総合的にトリガーポイント(障害筋)を推定する。
局所あるいは全体の静的観察
動的観察(当該関節・上下関節等)の可動域。
触診を駆使してトリガーポイントを検索する。
典型的な関連痛パターンを参考に検索していく。


☆参考文献
黒岩共一:臨床家のためのトリガーポイントアプローチ、医道の日本社
川喜田健司:鍼灸臨床の科学、P417-P426 硬結の成因を探る-トリガーポイントと索状硬結 医歯薬出版
黒岩共一:臨床スポーツ医学、vol.17、No9(2000-9)
伊藤和憲:トリガーポイント鍼療法を活用するために、医道の日本7月号2004
鍼灸osaka:臨床シリーズ「トリガーポイント治療」