『不妊の鍼灸治療はどのくらいの治療期間が必要なのですか』
全日本鍼灸学会の統計ではART体外受精レベルの患者さまで平均6.3ヶ月鍼灸を続けると成功率が上昇するというデータが報告されています。
よく漢方薬を飲み続けても妊娠に至るには『体質改善には半年ぐらいはかかりますよ!』
とは良く聞く話です。
どうも6ヶ月というのがキーワードのようです。
ではなぜこのぐらいの期間が必要になるのでしょうか?
『卵子の成長』という視点から少し考えてみましょう。
ここでみなさんに質問です。
『今月排卵される卵子はいつごろから卵巣で準備されるのか?』
医療関係者は当然知っていますが、一般の人ははるか昔に生物や発生学などで学んだことがあるかもしれませんね。
答えは5~6カ月前から徐々に大きくなり排卵されるその周期まで成長し続けます。
卵子は 原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞、(初期、中期)胞状卵胞、排卵期卵胞と成熟していきます。
原始卵胞から前胞状卵胞まででなんと3ヶ月以上もかけてゆっくり成長していきます。
前胞状卵胞から初期胞状卵胞まで約25日、そして直径が約2mm~5mmになると
Selectable follicle (選択される可能性のある卵胞)と呼ばれる状態になり、24才~33才までの人なら通常3個~11個あります。
排卵に向かう卵胞はこの中から1個が選択されて排卵されます。この間が月経開始から約2週間で排卵されるのです。
この原始卵胞にはじまり排卵されるその時に向かい少しずつ成長していくまでに実に約5~6ヶ月必要になるのです。
どうですか?約半年というキーワードとつながりましたね。
実は卵子にとっても鍼灸治療にとってもこの半年というのは非常に重要な働きを必要とする期間になります。
それにはなぜ卵はこのように長くゆっくりと成長する必要があるのでしょうか?
ということを考えると少し見えてくるように思います。卵子がなぜゆっくりと約半年という長い時間をかけてゆっくり成長するのでしょうか?
院長のアメブロ・・・こちらでは少しライトな感じで妊活などについても書いています。
今回はこれをすこし考えます。
卵子の減数分裂は通常の体細胞分裂と異なり非常に早いスピードで分裂をすることが知られています。
これの意味するところは・・・
通常の体細胞分裂は細胞周囲の環境に影響されながらゆっくりと分裂するのに対し、卵子の場合は周囲の影響を受けずに分裂するということです。
ということは?・・・
あらかじめ遺伝子や細胞に『分裂開始!分化開始!』の号令で一斉にスタートできるようにあらかじめ十分に準備、パワーを充填しておく必要があるということです。
大きな排卵される卵ばかりに注目しがちですが実は受精するまでの準備期間がその卵の将来にとっていかに大切か容易に想像できます。
したがって、この期間にヒートショックプロテインを増大させ、分子シャペロン機能を働かせておくかが、排卵・受精以降に重要になるということです。
この期間に鍼灸治療をおこなう意味がここにあります。
但し、卵子の成長については大きく分けて、
原始卵胞~2次卵胞まではゴナドトロピン非依存性
前胞状卵胞から胞状卵胞まではゴナドトロピン反応性発育
胞状卵胞から排卵まではゴナドトロピン依存性発育
ざっくり言うとこの3つのステージに分かれます。
どのステージから卵が鍼灸治療に反応するかで、良好胚と出会うまでの期間は変わるのでしょう。
『急がば回れ、だったわ!』
うまく妊娠した患者さまが良く言われる言葉です。
いま現在、『分割が途中で止まってしまう』『胚盤胞まで育たない』『グレードが低い』人は良質の卵子を採卵できるように準備をしっかりおこないましょう。
※この期間は病院での不妊治療を中止しましょうということではありません。
いつ良好な卵子が取れるか判らないこと、年齢的なこと等々により病院での不妊治療と併用してください。
最後に
1回2回の短期の治療で卵子の質が変わるわけではありませんが、このように質の良いタンパク質に満たされた、細胞質に満たされた状態で成長させ排卵されるその日を待ちましょう。
そのために鍼灸を活用してみてはいかがでしょうか?
良好胚に出会うまでについてとくにヒートショックプロテイン、分子シャペロン的視点から卵子に注目ついて考えてみました。
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耳管開放症の鍼灸
耳管開放症にお悩みの方へ、鍼灸療法が持つ自然なアプローチで、耳のバランスを回復しましょう。症状の根本原因にアプローチし、絶え間ない快適さを取り戻します。
〈耳管開放症〉
耳管開放症とは通常は閉じている耳管が何らかの原因で閉じなくなってしまった状態のため、
自分の声が強く響く
自分の呼吸音が聞こえる
耳が詰まった感じがする
耳鳴りやめまい
など様々な症状が出る症状です。上記のような症状➕姿勢によって症状が変化する、横になって寝ると楽になるなどの変化があればその可能性は高いと言われています。原因は明確になっていませんが、首や肩こりがある人に多いことや自律神経が乱れていると、耳管開放症になりやすいとも指摘されています。
〈鍼灸療法のアプローチ〉
鍼灸にできることは大きく分けて3つです。
①耳管の血流を改善させて収縮できるようにする。
②自律神経を調整することで耳管を正常化させる。
③心身の疲労状態、免疫力低下状態を正常化させることで収縮できるようにする。
〈セルフチェック〉
以下のような症状があれば鍼灸療法が適応する可能性があります。
首や肩がこっている
口が開けにくい
舌の周辺がギザギザになっている
鍼灸療法では主に三叉神経領域の経穴が良く用いられます。これは耳管を開孔する口蓋帆張筋の神経支配だからです。また同様に大後頭神経、舌咽神経の末梢の枝が分布している経穴に鍼灸をおこなうと効果があることも報告されています。具体的には『四白、大迎、頬車、天柱、白喉、内耳点』などに鍼灸をおこなうと良いようです。
自律神経の観点でいうと耳管の粘膜にある神経節は自律神経と深い関係があることが確認されています。抗コリン剤という副交感神経遮断するお薬で治癒したのも報告されていることからも自律神経が深く関与している疾患であると言うことがわかります。鍼灸では中耳粘膜の知覚を司る舌咽神経の抹消の枝に鍼刺激を行うこと、自律神経性の不均衡を是正することで耳管収縮を促し血流の改善を目指します。
次に全身状態からこの疾患を考えてみます。
〈心身共に疲れていませんか?〉
耳管開放症の患者さんは心身が疲れている人、強烈なストレスがある人、それが継続している人が多いと報告されています。これを受けて耳症状は心身症の一つであると指摘する研究者もいます。もう一度ご自身の状態を再確認してみてください。当院の患者さんを振り返ってもほとんどの人は発症時期に強烈なストレスがあった、もしくはそれが継続している人でした。ストレスにより自律神経も乱れ不眠、食欲減退、倦怠感などもありました。耳鼻科での治療に難渋している場合はこのようなタイプが多いと考えられます。ストレスによる疲労状態があれば耳局所の治療のみではなかなか改善してきません。
これはそこで鍼灸の抗ストレス作用を利用し全身状態を改善させることが治癒力の向上につながるのです。
耳管開放症による不快な症状から解放されませんか?鍼灸の知識と技術を駆使して、あなたの耳の健康をサポートします。
当院では耳管開放症以外の耳症状に対しても鍼灸施術をおこなっています。
妊活で男性側がするべき最初のこと
妊活でご主人が最初にするべきこと。
そのヒントになるのが下記の報告です。
男性不妊と職業ストレスとの関係を調べた報告を紹介。
帝京大学附属病院 泌尿器科からです。
80症例が対象
精液所見とアンケート調査実施。
平均 36.5才
精液料 2.6ml
精子濃度 4224万/ml
運動率 53%
精子数5911万
これが平均値となります。
また約9割の人が仕事のストレスを多少なりとも感じているという結果。
週の労働時間が60時間を超えると、
精液量が優位に低下
精液濃度も低下傾向になる
睡眠時間が6時間未満で運動率は低下
仕事のストレスが高まるにつれて運動率は低下
WHOの精子基準をクリアしてればOKなのか?
WHOの精子基準はあくまでも妊娠可能な最低限の値を示していると言われています。
したがって基準値ギリギリを上回っている程度ではでは不可能ではないが、妊娠確率は低下することが予想されるということ。自然妊娠を望む場合、WHOの基準値は理論上不可能なことはないけれど、妊娠率を上げようとすると男性側も何か対策しないといけないということを示しています。検査で異常なしと言われた男性も数値を再度確認してみましょう。
同じぐらいの数値であればご主人も生活習慣の見直しを含めた妊活の対象になりますよ。
次に必要なこと
「検査上は問題ないのですが、何かしなくてはいけないことはありますか?」
「異常はないのですが主人も施術した方が良いですか?」などと聞かれるようになりました。妊活には男性側の協力が重要であるということが少しずつ浸透してきているようですね。
☆精液検査で特に問題ないと言われた方はまず何をしなくてはいけないのでしょうか?まずはタイミングの回数を多くしてください。臨床的妊娠確率が高いのは排卵前1日〜2日前。ただし5日前から排卵まで複数回タイミングを行うと妊娠率が高くなる。
タイミング数/妊娠率
- 1回/26.4%
- 2回/28.0%
- 3回/37.5%
- 4回/46.6%
- 5回/33.3%
- 6回/10.0%
婦人科で卵胞チェックを行なっている場合や検査薬、体温表などを用いてタイミングをとっているご夫婦に多いのですが、「2日前を狙って!」妊娠率は上記のようになっていますので、ご主人にできること、お願いすることは「まずはタイミングの回数を増やす」。その後に鍼灸かもしれませんね。
突発性難聴・高音部の聴力が改善した症例
【主訴】突発性難聴
【発症】X年3月18日
【現病歴】3月18日に難聴とめまいが出現。3月25日に耳鼻科受診し突発性難聴と診断される。標準純音聴力検査(以下オージオグラム)の結果、高音部の難聴。
ステロイド内服などの標準治療開始。
2日後にもオージオグラム施行。
低音領域の聴力の低下も認めた。
3日後のオージオグラム
低音領域は改善も高音領域は不変とのことで、鍼灸施術との併用を希望され来院された。
【施術目標および計画】
①高音領域の聴力改善
②低音領域の維持
③めまい・耳鳴・耳閉塞感などの付随する症状の改善
1回/週の頻度の施術とする。ただし、聴力改善するまでは2回/週とする。
【施術】
当院の耳疾患標準施術
(頭部・頸部・肩部などへの施術および東洋医学的に脾・腎などの経穴への施術)
スーパーライザーによる星状神経節照射をおこなう。
【経過】
計3回の施術後のオージオグラムで4000Hzの聴力改善。
耳鳴・めまいなど付随する症状は残っているので引き続き施術を継続する予定。
【考察】比較的早期に聴力の改善を示した症例です。聴覚の有毛細胞は血管に近い方から低音領域→高音領域に配列されています。したがって血流の問題もありで高音領域は回復しにくい傾向にあります。耳鼻科医からも高音領域については回復は厳しい旨の説明がなされていました。しかし4月1日時のオージオグラムでは25dBまで改善し、ほぼ正常まで回復しました。また低音領域は正常値のまま安定傾向にあります。うまく回復した症例でした。
メニエール病のめまいと鍼灸(症例)
なかなか治らないめまいや定期的に起こるめまい。
メニエール病と診断されている場合もあれば、診断名がつかないこともあります。
どこに行くにしても、何をするにしても、常にめまいのことを考慮しながらの生活になり大きなストレスとなります。
検査をおこなっても特に異常は無く、患者さん本人はもちろん主治医も困っているようなケースです。
めまい発作が発症している時は耳鼻科での治療が優先です。
しかし真の治療とはめまいの本当の原因を改善させて、発作を起こさないような体、状態にすることだと考えています。
そのめまいの原因にはいろいろとありますが、鍼灸がとても有効な場合があります。
それはめまいの原因が首や肩の凝りの場合です。
このタイプのめまいを『頚性めまい』といいます。
めまい診断のチャートを紹介します。
シリーズ教育講座「原著から今日まで ―代表的疾患の変遷―」
チャート内の頚部痛とありますが、臨床的には本人に自覚がないことや非常に軽微に感じていることも多いということが注意点です。
また内リンパ水腫が原因のめまいであれば利尿剤や漢方薬などがとても良く効くので耳鼻科医での治療で治癒していると思われます。
したがって標準治療をおこなってもなおめまいが頻発する場合は頸性めまいの可能性が高いです。
当院の鍼灸療法ではこの頚性めまいの原因である首や肩などの筋肉を緩めるような施術をファーストチョイスとしています。
僧帽筋
肩甲挙筋
後頭下筋群
側頭筋
胸鎖乳突筋
などを中心としてこりを探して筋肉を緩めていきます。
ただし筋肉の『こり』はあまり自覚がないことの方が多く、鍼灸師が探してみて初めてとても強い圧痛と共にその段階で初めてこりを自覚する方がほとんどです。
〈セルフチェック〉
以下のような症状があれば頸性めまいの可能性があります。
首が痛む
首や肩がこっている
エラが張っているように見える
口が開けにくい
舌の周辺がギザギザになっている
次に首や肩の筋肉が硬くなっているのかを探りそちらへの施術も同時に行います。
- 頸椎症などによる筋緊張
- パソコン作業での姿勢や眼の疲労
- 顎関節症や食いしばり
- 偏頭痛
- ストレスによる交感神経緊張・自律神経の変調
- 産後の疲労継続
- 交通事故によるムチウチの既往
- うつ病などによる頚部筋緊張
このように背景に何があるのかも重要なポイントです。
鍼灸院へ来院される頃はおそらく早くて1ヶ月、ほとんどはそれ以上経過しており、日常生活の質はかなり低下している場合がほとんどです。〈鍼灸施術における注意点〉
筋緊張は緩和しても頚部からめまいを起こす神経の経路を正常化させるのには一定の期間施術が必要です。
そうすることで徐々に頻度や程度は改善し、消失していくことが多いようです。
また発作期と寛解期を繰り返す場合も多いので一定期間の経過観察および施術期間が必要です。これまで紹介してきたように頸性めまいに関してはかなり鍼灸療法は有効です。いつどこでめまい発作が起きるかわからないと不安に過ごすよりも鍼灸療法ですっきりしてみませんか?
〈症例紹介〉ほんの一部を紹介します。
【症例1】50才 女性
【主訴】めまい
【現病歴】数年前より数ヶ月に1回の頻度で回転性のめまい発症約半年前から2〜3日に1回のい頻度で発症するようになった。特に起床直後に症状出現し、昼には寛解するという繰り返し。仕事も休職していいるが症状は変化ない各科の検査を行うも器質的な問題はない投薬治療のみで経過観察中
【既往歴】うつ病
【症状および所見】疲れやすい手足が冷える右肩から肩甲骨に疼痛あるも可動域制限はない頚肩部筋緊張圧痛著明→ほぼ全て側頭筋・咬筋も同様→食いしばり腹部臍傍抵抗圧痛著名→瘀血
【施術】頭部鍼通電天柱・風生・太渓・心兪・肝兪・脾兪ー置鍼適宜温灸も併用
【経過】
1回/週の頻度で施術3回目:今週1回めまい出現も程度軽い
4回目:1回だけ軽度めまい以降めまい消失その他の症状に対しての施術継続頚肩部の筋緊張は軽減するも残存。
瘀血や食いしばり傾向になるのが影響していると思われる。
めまいが消失してから頚肩部の凝り感や頭痛を自覚するようになった。
頚部筋からの刺激が前庭系に入力しなくなったものと思われる。
めまいが消失したのでジムでの運動も開始、徐々に体調が回復しているのを実感できているとのこと。
【症例】
65才 女性
【主訴】
めまい
1日中持続しているふわふわするような浮動感。
【現病歴】
約1ヶ月前に急性の胃腸炎発症。
胃腸炎の方は軽快するもその後からめまい感が出現。
苓桂朮甘湯(めまいの漢方薬)服用も変化なく当院へ。
【症状および所見】
首肩の凝り感が強い
胃腸の調子がすっきりしない
観察でも頚部全体の筋緊張が目立つ
肩甲挙筋の緊張圧痛がとても強い
胸鎖乳突筋にもトリガーポイントあり【施術方針】頸性めまいと判断し頚部の筋緊張、特に肩甲挙筋の緊張緩和を目的とした。
【施術】
肩甲挙筋へ2本鍼施術、スーパーライザー併用
施術後筋緊張が緩和されたので終了。
計2回の施術でめまい症状消失し、予防的に3回目を施術して終了。
興味深いのは頸部の筋緊張が緩和しめまい感が消失したと同時に胃腸の調子もよくなったこと。
自律神経と頸部の関係性が理解しやすい症例でした。
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2023年2月18日 | Category : 耳鼻科領域 | Tag : めまい 治療 石川県, めまい 鍼 石川県, めまい鍼小松市 | Author : 院長 | Leave a commentEdit
メニエル病・難聴後に残った症状への鍼灸
メニエル病の蝸牛型や突発性難聴になった場合、聴力の回復如何の他に悩ませる症状が耳閉感・音響・耳鳴などの症状です。
時には聴力の低下よりもご本人にとってストレスとなることがあります。この諸症状は聴覚過敏の一つと言われ耳鼻科医での治療は限られています。
『あまり気にしないように』『慣れるしかない』と言われることからも分かります。
鍼灸療法では鍼通電刺激や末梢のツボ刺激、頚肩部を中心として筋緊張部位などへ鍼灸刺激などを行うことで聴覚過敏をいち早く正常化に導くことができます。
また当院ではスーパーライザーによる星状神経節照射を行うことで交感神経抑制、脳血流量の改善を目的に鍼灸療法と併用しています。
鍼灸刺激やスーパーライザーによる脳の変化、正常化は多くの基礎研究で明らかになっていますのでここでは取り上げません。
このような施術を行うことで数回〜2ヶ月程度(個人差、症状による)と自然経過との比較でも明らかに短期間で症状が消失しています。
一般的にこれらの症状は自然寛解するとも言われていますが、数ヶ月単位と長引く場合もありご本人にとっては非常に苦痛な期間を過ごすことになります。
長引くことにより睡眠障害などを引き起こし自律神経系の異常へと発展する場合もあります。
このような症状は鍼灸がとても良く効きますのでお悩みの方はご相談ください。
妊活さんへの仙骨部表面電気刺激法
当院では妊活鍼灸に仙骨部表面電気刺激を併用しています。
仙骨部表面電気刺激法については下記に報告されています。
この報告では仙骨部に表面電気刺激を加えることで子宮の異常収縮が改善され、着床しやすくなる可能性を示唆しています。
過去の研究から子宮筋腫や子宮内膜症などがある人では子宮の異常収縮が認められることが知られており、不妊の原因の一つになっている可能性があることは指摘されています。
しかしこれまで異常収縮がある場合の治療法はありませんでした。
採卵状況は良好であるがなかなか着床しない方は着床障害が考えられますが、そのような方には特に有効な治療法の一つになる可能性があります。
またこの報告では表面の電気刺激でも効果が出ているようですが、表面の電気刺激よりも鍼灸刺激、および鍼通電刺激の方が効果は高いとされる研究が多いことから、この子宮収縮に関する刺激も鍼灸刺激(鍼通電刺激)の方が有効性は高いことが推測されます。
このことから胚移植時や排卵時期(タイミング時期)への鍼灸施術が妊娠率を上げる過去の報告は、このような陰部神経を介した子宮収縮の調整に働いていた要因もあるのかもしれません。
一方、妊娠成立には自律神経や免疫寛容などが作用する必要があることも知られており、鍼灸ではそれらにも刺激を行い調整することで妊娠率を上げることも知られています。
妊活分野において鍼灸が多く取り入れられているメカニズムが少しずつ明らかになってきているようですね。
したがって当院では仙骨部表面電気刺激と鍼灸刺激を併用し、より相乗効果を狙ってより効果を高めた刺激方法を行なっています。
子宮の異常収縮が原因の不妊は鍼灸が有効
子宮の異常収縮が妊娠率を低下させる。
正常化は生殖医療(一般医療)では困難であるが鍼灸では容易である。
近年、胚移植時(着床時)に子宮の異常収縮(強い収縮)がある場合は妊娠率が低下し、低い収縮の場合は妊娠率は上がることが明らかになってきました。子宮側に問題がある着床障害の一つです。
特に子宮筋腫や子宮内膜症などが背景にある場合は、子宮の異常収縮を認めることがすでに報告されています。
したがってこの異常収縮を正常化させることができれば妊娠率は上がるということになります。
なんだ簡単なことですね?
と思われますが、実際にはそうではなく生殖医学を含めた通常の医学では難しいことなのです。
子宮の収縮は筋肉の収縮でもあります。通常の医療ではこの手の筋肉トラブルに対しては無力に近いのです。
考えてみてください。
肩こり(筋肉の持続的収縮状態)はどうですか?
全身の凝った状態はお薬で劇的に良くな流でしょうか?
残念ながら良くならないので鍼灸・あん摩・マッサージが今の時代でも残っているのです。
また仮に収縮を抑制するお薬を使ったとしましょう。
薬理上、全ての薬の効果は全身に影響します。
異常な収縮を起こしているところには有効かもしれませんが、その他の正常な部位に影響してしまうことも考慮入れる必要があります。
これらのことから通常の医療では非常に難しいのが現状なのです。
しかし鍼灸では容易です。
鍼灸の刺激により脊髄反射あるいは脳を介した反射により収縮している部位をピンポイントで調整することが可能であり、副作用もありません。
鍼灸で生理痛が減少するのもこの子宮収縮が適度な収縮に変わるからです。
異常収縮のみが原因であれば短期間で妊娠する確率が高い
多くの妊活さんは卵子の問題、子宮の収縮以外の問題が複数存在している方がほとんどです。
しかしなかには異常収縮のみが原因で長い期間授からない方も存在します。
このような方に鍼灸施術を行うと短期間・少ない回数で妊娠することが多いと実感しています。
前のお子さんは自然妊娠したものの2人目、3人目がなかなか授からない方などにもこのような方が見られます。
当然卵子の質が大きなウェイトを占めるのが妊活です。しかしその他の原因にも目を向けられると妊娠に近づくのではないでしょうか?
鍼灸の研究で移植前後に鍼灸施術をすると妊娠率が上がる論文があります。
またネットでも数回の施術で妊娠したと報告されているものも目にします。
これらは子宮の異常収縮が是正されたために妊娠した可能性が非常に高いです。
卵子の質の改善には一定の期間が必要になります。
子宮の異常収縮を是正し妊娠率を上乗せしながら卵子の質の改善を待つことがとても効率的なように思います。
これに着目し漢方薬を処方した報告
体外受精における胚移植時の芍薬甘草湯併用による妊娠率改善効果の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/58/3/58_3_475/_pdf
仙骨表面電気刺激による新しい神経調整的不妊治療の研究
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-20300192/20300192seika.pdf
これまでの鍼灸の基礎研究からは鍼灸刺激の方が効果は大きいことが明らかになっていることを最後に付け加えておきます。
突発性難聴~1週間後から鍼灸を開始したケース~
突発性難聴を発症して約1週間後より鍼灸施術を開始できた症例を紹介します。
【症例】55才 女性
【主訴】突発性難聴
【初検日】X年8月16日
【現病歴】
X年8月10日 突然首や肩のこりが強くなるのに気づく。同時に左耳の詰まった感じと腫れぼったい感じを自覚
8月11日 耳鼻科受診。突発性難聴と診断され入院し、ステロイドパルス療法含む標準治療を受ける。
16日 退院し転医。同日に鍼灸施術との併用を希望され来院された。
左:耳鼻科初診時と右:退院時の聴力
ほとんど変化がないことがわかります。
【施術および経過】
8月16日鍼灸初検
施術:左側頭部、左胸鎖乳突筋部、上背部の筋緊張部位へ置鍼、照海・腎兪へお灸(腎虚体質のため)
8月22日 耳閉感↓腫れぼったい感じ↓
8月29日 先週よりも耳閉感↓、腫れぼったい感じ↓、少し音が聞こえるような気がする
9月2日
9月2日の聴力
ほぼ発症前の聴力に回復し、耳閉感、腫れぼったい感じ、耳鳴、音響など全て消失。
治癒としました。
発症後から退院までの間で聴力が変化していない症例でしたので、どこまで聴力が戻るか不明でしたが回復しました。
9月2日の耳鼻科での診察時のこと、
検査技師『本当に患側である左側の耳に当てました?』
主治医『!???』
2人とも驚いた顔してましたよとのことでした。
みなさんこのように治癒するわけではありませんが、聴力が回復する可能性のある期間ゴールデンタイムは限られていますので、その期間を逃さないようにしましょう。
以下のような症状があれば特に鍼灸の適応です。
首が痛む
首や肩がこっている
エラが張っているように見える
口が開けにくい
舌の周辺がギザギザになっている
入院中のかたは退院後すぐに、通院のみの方はステロイド治療と併用可能です。
なるべく早期に施術を開始することが回復の大きなポイントです。
耳鳴のメカニズムと鍼灸
耳鳴とは外部からの音刺激がないのに 耳に音を感じることと定義されています。
成人の15%がなんらかの耳鳴を経験し、そのうち20%が生活に支障をきたすほどの耳鳴で悩まされているとされています。人数にすると約300万人になります。
耳鳴には自覚耳鳴と他覚的耳鳴に分類されますがほとんどは自覚的耳鳴です。
他覚的耳鳴には血管音やアブミ骨筋などが原因のことが多いとされています。
そこでここでは一般的な自覚的耳鳴にしぼって紹介します。
【耳鳴の原因】
鼓膜~中耳~内耳~聴覚神経~大脳聴覚野のどの部分にトラブルが起きてもおこりますが中耳炎や鼓膜のトラブルなど原因が明確な場合を除くと、耳鳴の原因は以下の図のようなメカニズムで発症するといわれています。
高音部(黄色)のメモリが低下しています。これは高音部の聴力が低下していることを表した写真です。
これまで聞こえていた聴力が低下したので、大脳の聴覚野が感度を上げようとして興奮した結果、通常では拾うことのなかった電気信号まで拾うようになり、それが耳鳴音として聞こえてしまうというのがメカニズムです。
したがって耳鳴は耳が鳴っているのではなく、脳が鳴っていると理解しましょう。
さて、耳鳴で悩んでいる人以外耳鳴は感じないのでしょうか?
実は耳鳴は静かな無音の環境下ではほとんどの人が耳鳴を感じています。
問題はそれが常に意識してしまうのか?それが不快に感じてしまうか?なのです。
耳鳴で苦しんでいる人は
- 大脳辺縁系の海馬で不快な経験として記憶される
- ⇒扁桃体では不快感や恐怖として認識
- ⇒扁桃体は視床下部を通じて自律神経に「退避行動」を取るように命令
- ⇒退避行動は、心拍数の増加、血圧の上昇など、危険に対して身構えているようなもの
- ⇒緊張を強いられた状態
- ⇒自律神経の緊張状態は、大脳皮質を刺激
- ⇒大脳辺縁系へ不快なストレスを伴った信号が巡り巡っていくという悪循環を来たす。
このように耳が問題なのではなく、脳が複雑に関与しているのが耳鳴なのです。
まずは専門医で以下のような疾患がないか診察を受けてください。
- メニエール病
・突発性難聴
・老人性難聴
・ラムゼイ・ハント病
・薬剤性内耳障害
・自律神経失調症
・外耳道炎
・耳硬化症、中耳炎、鼓膜炎
・耳管機能不全、耳管炎
・聴神経腫瘍、聴神経炎
・脳の外傷、脳腫瘍、脳出血、脳幹梗塞上記の疾患がない場合、西洋医学的治療は限られていますので、鍼灸治療が有効かもしれません。
鍼灸治療では下記のような効果が期待できます。
内耳の血液循環改善
聴神経の血流改善
大脳辺縁系や大脳皮質の異常興奮の鎮静化
自律神経の調整
などを目的に行います。
また耳鳴の発症原因が、
突発性難聴やメニエール病の蝸牛型などによる聴力の低下なのか?
うつ・自律神経の異常によるものなのか?
高齢による聴力低下なのか?
風邪や中耳炎による一過性のものなのか?
などを鑑別し、それぞれに対応していきます。
耳鼻科での治療については限られており、『気のせいなので慣れるしかない』と放置されてしまうことが多いようです。
上記のような作用機序で鍼灸療法は耳鳴に対しては有効な手段となります。
突発性難聴の発症約2ヶ月後より施術を開始
【要旨】
突発性難聴発症
約1ヶ月半後に耳鼻科受診→標準治療開始
※ゴールデンタイムを逃す
聴力変化なし
約2ヶ月後より鍼灸施術開始
※聴力固定の可能性大
ただし低音領域のみであるため改善の可能性も僅かにあり
【症例】
56才 女性
【主訴】突発性難聴
【初検】8月8日
【現病歴】
6月上旬に左耳の聞こえずらさを自覚。耳閉感・耳鳴り・音響
7月22日 耳鼻科受診
低音部の聴力低下が認められます。
ステロイド1週間、その後ビタミン剤という標準治療→経過観察
聴力の改善が見られないため8月8日鍼灸施術を希望され来院。
1回/週の頻度で鍼灸施術を開始。
8月18日
鍼灸施術は2回済み
あまり変化はないようですね。
この受診時の主治医コメント
『おそらくこれ以上は良くならないと思います』とのこと。
鍼灸開始して間がないこともあり、もう3週間ビタミン剤の処方と鍼灸施術を併用してみることに。
当院の方針も3週間後に聴力の変化を認めないようなら聴力固定とし、付随する症状(耳閉塞感・耳鳴等)への施術に変更することとしました。
9月8日
耳鼻科医コメント
『聴力が改善傾向にあるので、もう3週間処方を継続』とのこと。
250Hzと500Hzで約15d B改善しています。
僅か15dBのようにも思えますが、60dB代と40dB代とでは聞きずらさはかなり違ってきます。
これからどこまで改善するかはまだわかりませんが、聴力が動いている間は鍼灸施術を継続すると良いでしょう。
ゴールデンタイムを逃した症例だったが鍼灸施術を開始してから改善
- 聴力低下が高音部に比較して血流の豊富な低音部領域だったこと
- 当院の鍼灸施術が的確であったこと
- 瘀血の証であったことで血流改善による聴力回復が可能であったこと
- スーパーライザーによる星状神経節照射を的確に行ったこと
などが要因と考えます。
全ての人が治癒、改善するということは残念ながらありません。
しかし鍼灸施術によりその可能性が高まれば・・・
今より少しでも聴力が改善すれば・・・
聴力が固定してしまう前に一度鍼灸療法を試してみたらいかがでしょうか?